ますます遠ざかるマイホームの夢

毎年春になるとマイホーム購入のシーズンが始まる。パンデミックも少し収束の気配が出てきたが、インフレ懸念によるローン金利上昇、ウクライナ情勢など様々な不安定要因もそこにあって市場予測が難しい。しかし極端な売り手市場が今のところ続いている。

一例をあげると昨年 9 月ニュージャージー州で活躍するコールドウェルバンカーのエージェントアリース ポラキス氏はマイホーム新規購入を希望する若い夫婦に北ニュージャージー地区で探し始めた。65 万ド ルの予算でできれば 2 ユニットある物件で一つは居住用で、もう一つは賃貸用にできる物件を探していた。
好きな物件が出てもオファーが却下されたり高いオファーに負けたりして何回かトライしてようやく今年の2月に仮契約できた。しかし同夫妻は価格が高すぎたと後悔してキャンセルした途端に他の買手に物件を取られてしまった。キャンセルの直後同夫妻は同じ価格で再度オファーしたが、時遅しであった。

ポラキス氏は「買手にとってウロウロ迷っている余裕はない。交渉しても難しい。他の買手が怯んだ時が 唯一のチャンスである。それくらい現在の市場は厳しい。在庫不足は早急に解決しそうにない。」と述べている。
若い夫婦の苦い経験は現在米国でマイホームを求める人たちにとって典型的な状況だと言える。初回購入 者は尚更厳しい状況に置かれている。初回購入者が希望する物件(スターターホーム)は賃貸や再販売が しやすいため数多くの投資家が求めている。投資家は豊富な資金を使って融資なしのキャッシュ購入や修 理条件なし、短期決済、売り出し価格より 10 万ドル以上のオファー価格といった戦略で物件を取りにく るため一般購入者、中でも初回購入者にとっては到底太刀打ちできない。

全米不動産協会の調査によると、スターターホームの平均価格は 2019 年における$233,400 から 2021 年 には$307,400 へと急上昇しているという。スターターホームは床面積にして 1500sq.ft.(約 150 m²)く らいで 2-3 ベッドルームというのが典型的なサイズである。同期間に毎月の平均ローン支払額は$1,038から$1,224 へとほぼ 20%上昇している。所得も同時に上がってはいるが年間 3.0-4.5%ととても物件価 格の上昇についていけない。
このような要因もあって初回購入する買手の平均年齢も上昇を続けている。1981年に 32歳だったのが 2021年には 45歳になっている。その間年間所得は$80,000 から$86,000 へとわずかな上昇にとどまっている。

このような状況下で初回購入者には厳しいい現実が待ち構えている。売出し価格より高くでオファーして以前より高いローン利息を支払う覚悟で購入するか、購入を諦めて賃貸し続けるかという選択肢である。

カービオ社マーケティング部長オリビアマリアニ氏は「初回購入者はリフォームや最小限の修理が完了し ている即入居可能な物件を探している。特にミレニアル世代では修理する、リフォームするといったこと を極端に嫌う傾向がある。DIY を好むこれまでの世代と大きく異なる。パンデミックのおかげで郊外で庭 があってスペースのある戸建てを好む。リモートで仕事をしながら、家族とくつろげるスペースを求めて いる。」と述べている。

全米の在庫数は 2020 年末で 104 万件あったのが 2021 年末には 91 万件まで下がっている。そのため価格 は全米ほぼどの地域においても上昇している。テキサス州ダラス市では平均価格が 2020 年 1 月における $210,000 から 2021 年 1 月に$285,000 となっている。
テネシー州ノックスビル市では 2020 年に$200,000 弱だったものが 2021 年には$275,000 まで上昇して いる。
こういった全米各州における中核都市においてハウジング不足が続いている。売出し物件が 1 件市場に出 ると複数(最低でも 4-5 人の買手)からオファーが提出されるが、そのうちのいくつかは投資家で前述の ようにキャッシュ決済、短期成約、高いオファー価格、修理などの条件なしと売り手にとって断れない条 件であるため、物件が投資家の手に渡る可能性が高い。そうするとオファーが通らなかったたの買手は物 件を探し続けることになる。

今後どうなるのだろう。まずキャッシュ決済ができずに物件を投資家に取られてしまう一般購入者のため にローン会社が融資審査が通った買手のために一時的に購入代金をそっくり提供するサービスを始めてい る。もちろんその分手数料を取られる。しかし売手が複数の買い手の中から選ぶときに選ばれる可能性が かなり高くなる。Neat Loans 社はその一つである。同社 CEO ルークジョンソン氏は「このサービスを利 用すれば価格、決済期間などでかなりの交渉力を持つことができる。少なくとも投資家に負けない条件が 揃ったと言える。」と説明している。

初回購入者が購入可能なエリアは職場や学校からさらに離れたところにならざるを得ない。もしくは古く て大きな修理が必要な物件、あるいは予算をさらに上げるといった妥協をしなければマイホームが手に入 らなくなっている。さもなければ購入を諦めて賃貸を続けるかであるが、そのレントもここ数年の値上がりが激しい。毎年 5-7%上昇しているため、レントで収入の多くの部分がなくなりマイホームの頭金がた まらないという現象が至るところで見受けられる。

米国民にとってマイホームはもはや普通や当たり前ではなく貴重な存在となりつつある。