iBuyerの将来

iBuyer最新の動きを見てみよう。Zillow、オープンドア、オファーパッドからなる大手3社2021年に買い取った物件の約20%が機関投資家に売却されている。これらの取引はMLSといったオープンマーケットではなく主に2者間だけの間で行われていることがブルムバーグ社の調査でわかった。昨年の極端な在庫不足はこういった動きも要因になっているようだ。

地域別iBuyerのマーケットシェア
(2021年第1四半期-第2四半期、件数、マーケットシェア、iBuyer買取価格中間値、中間価格)


(Zillow社より)

同社ではアトムデータソリューション社が収集した10万件に及ぶ取引事例を対象に調査を行った。その結果マイノリティーが多い地域においてはこの傾向がさらに高くなり、白人中心地域よりも60%以上高い確率で機関投資家に転売(フリッピング)されているという。機関投資家にはKKR社、サーバラスキャピタルマネージメント社、ブラックストーン社などのベンチャー企業が名を連ねている。
その傾向が最も強いホットスポットはジョージア州マクドナ市でiBuyer取引事例の70%が機関投資家に転売されている。その多くはオープンマーケットに出されていない。

インマン社アナリストマイクデルプリート氏は「iBuyer各社の言い分は地域におけるホームオーナーがより売り買いがしやすいようにするのが彼らの役目であると主張している。しかし通常の市場から買い取って大手機関投資家に転売するとは言っていない。これはおそらく地域の人々に知られたくない情報だからだろう。」と述べている。
Zillow社は昨年11月に突然iBuyerビジネスから撤退したが、まだ保有物件を売却中である。同社広報担当ビエシェルトン氏は「当社物件の買い手は一般消費者、小口投資家、機関投資家、NPOなど多岐にわたっている。一部の買い手だけに有利な条件を提示していない。」と説明している。

オファーパッド社広報担当者も「買い手は多くの場合一般消費者であるが、一部機関投資家も含まれる。これは取引が簡単で容易に多数の物件が売却できるメリットによるものである。」という。
オファーパッド社は昨年秋に株式公開を行い27億ドルの株価総額を記録したが、さらに買い付けを増加させるため6億ドルの追加資本を求めている。

リーダー格のオープンドア社では昨年第3四半期だけで15,181物件を買い取り5,988物件を売却した。同社も更なる市場を開拓するため買取のための追加資本を検討している。

昨年第3四半期における米国住宅売却件数のうち18%が投資家に売却されている。これは過去20年間で最高の割合である。その中でiBuyerはまだ少数派である。約1%前後である。

しかし従来型仲介企業やそのエージェントからはiBuyerの存在が今後ますます大きくなると危惧している。レッドフィン社CEOグレンケルマン氏は「30%のエージェントが今後iBuyerのシェアが5-10%、30%のエージェントがシェアが10-25%、15%のエージェントがシェアが25-50%になると答えている。iBuyerの脅威が消えることはないだろう。しかし個人的にはそのシェアが既存ビジネスに大きなダメージを与えるほど大きくはならないと考えている。iBuyerのビジネスモデルは見た目ほど決して効率的ではない。」と述べている。

ただケルマン氏はエージェントが警戒すべきはiBuyerよりむしろ仲介ビジネスが減ることであると説明する。「Disintermediation(仲介からの脱却)」と同氏は呼んでいる。つまりテクノロジーが普及するほどエージェントが関わる業務や作業は少なくなる。ショーイングはMatterportなどのバーチュアルが一般化している。書類の準備やサインも電子化されている。コミュニケーションもテキストやメールで実際に顔を合わせることは少ない。同氏は既存の不動産仲介企業もテクノロジーに対応する必要があると強調している。

レッドフィン社もiBuyer プログラムをスタートさせている。同社では一定の地域に限定し、築年も1950何代後半以降の物件のみをキャッシュオファーの対象としている。同社の狙いはiBuyerに本格参入するというよりも、売り手にとっての選択肢を増やすことにある。まず簡単に売却できるiBuyerプログラムでキャッシュオファーを提示して売り手が興味を示さない場合、既存の仲介チームがMLSで売却する準備を進めるというハイブリッド型ビジネスモデルである。新旧両方に対応できる姿勢である。

では機関投資家にとってなぜ中古住宅物件への投資が面白いのであろうか。まずコロナ禍において各政府ともマネーフローを極端に緩めたため、投資資金がダブついている。投資のチャンスがなかなか増えない中で中古住宅市場はこの数年極端な売り手市場を経験しており、投資家にとっては比較的リスクの少ない投資であると言える。仕入れ価格をしっかりと吟味して購入し、必要なリハブを加え、あとは売却のタイミングさえ見極めればロスを生む可能性が低いと見ている。
2022年から各国政府が金融を引き締める政策に転換しつつあるため、少しずつではあるが中古住宅市場にもスローダウンが訪れると判断して良い。かといって投資家のマインドが完全に冷え切ってしまうという事態は当分考えられない。また売り手にとっても売却には慎重な売り手が多数派であるため、市場に出てくる物件数は今年も少ない。iBuyerや機関投資家にとってまだビジネスチャンスは相当あると見るのが妥当である。