(Inman社レポートを要約)
米国社会は人々がそうであるように経済にその格差が拡がっている。その影響は不動産市場にも影響を与えている。K字型経済と呼ばれる現象を数名のエコノミストが指摘し始めてから数ヶ月になる。これは一部の経済セクターがショックを受けて上昇する間に他のセクターが同様のショックを受けて下落するという現象である。上昇か下落でその間のミドルというものが存在しない。グラフにするとKの字のような動 きを示す。

IT や AI、消費額、そして株価が上昇する一方で新規雇用者数は減っているが物価が上昇し続けている。 物価の上昇により多くの消費者が贅沢品や嗜好品の購入を避けている一方で富裕層は高額商品やブランド品の購入を増やしている。高度成長期のような国民の多くが中間層という状況が消えた。あるのは数少ない富裕層とマイナス中間層+低所得層からなる格差社会である。 FRB(米国連邦準備委員会)会長ジェロームパウエル氏は米国の金融政策を司る頂点に立つ人物であるが、同氏は「消費財を扱う大手企業トップの多くが消費経済が二分化していると指摘している。中間から下層の世帯では消費量を抑えてさらに低価格の商品を購入する傾向があるが、富裕層では収入の増加と支出の増加が著しい。」と述べている。
住宅不動産の世界でも同様の現象が見られる。高額物件と低価格物件との格差がここ数ヶ月で拡大している。
高価格物件を狙う富裕層は現在の市場において資産、所得の両面で圧倒的なパワーを持っている。自宅だけでなく、セカンドホームや投資物件を複数所有し、エクイティー(純資産)の額も大きい。そのため売り買いに関してプレッシャーがかかることがほとんどない。いつでも買えるし、いつでも売れる、または 全く売り買いする必要もない。ほぼ自らでそのタイミングや価格をコントロールすることができる。 全米不動産協会チーフエコノミストジョエルバーナー氏は「富裕層は現金購入ができる。マイアミをはじめとする高額物件地域(ラグジェアリーマーケット)において 100万ドル以上で取引された物件の半分以上が現金取引であった。物件価格が高くなるほど現金決済の割合が上昇している。市場も活発に動いている。一方でローンを必要とする中間層、下層を対象とする市場では金利の高さもあってスローダウンが続いている。これがK字現象である。」と述べている。
不動産ポータル最大手 Zillow 社シニアーエコノミストキャラエング氏は「ラグジュアリー市場では在庫数が昨年比で3%減っている。しかし中間価格以下の市場では逆に17%も増加している。在庫数の中で値下げする物件数の割合はラグジュアリー市場で 20%に対して中間価格以下の市場では28%に及ぶ。」という。
購入した後も富裕層は家をさらにリフォームする、造園する、インテリアデザインするなどお金を注ぎ込むことができる。中間層以下では高い金利のせいもあってローン支払い、保険や HOA(管理組合管理費) といった毎月のコストですら支払いが大変になっている。 この時期に高金利ローンをしなければ物件購入できないのは現金購入と比べて明らかに不利である。オフ ァーの強さでも大きく違うため交渉力にも大きな格差が出る。 こういった状況において新規購入者の数は記録的に少ない。これまで20歳台から少しずつ上昇してきた 新規購入者の平均年齢は今や40歳を軽く超えている。
米国住宅市場要約
(2025年9月、住宅中間価格、中間価格物件を購入するのに必要な年収、過去1年間の住宅価格変動、 今後1年間の変動)

地域的にも格差が生まれている。東海岸、そして西海岸(中でもカリフォルニア州)では住宅市場が堅調 に伸びている。ファイナンス、医療、IT、バイオといった高所得の雇用先がこれらの地域に集中しているため購入者も余裕がある。
シアトル市でウィンダーミアー社エコノミストを務めるジェフタッカー氏は「物件価格 100 万ドル以上の 市場では販売件数で昨年比+4%であったが、100万ドル以下の市場では-0.3%と高額物件の方が活発であることがわかる。このことから現在の住宅市場は高所得を得ている買い手で成り立っているということになる。特にシアトルでは IT 関連企業(アマゾン、グーグル、メタ)が多く、高い給与に加えてストック オプションが与えられるためこれらが住宅資金として利用されている。」と説明している。 同氏はこういった大企業の雇用について憂慮すべき面もあるという。「AIへの投資が増加するほど人材 の必要性が少なくなる。最近大手テク企業で大量の解雇が続いているのはこのためである。大手 IT 企業 の今後の動きは不安定で読みづらい。購入者の心理状況もストックオプションと解雇の間で彷徨っている。」と述べている。
一方フロリダ州では買い手市場になって価格が下がっている。雇用市場が良くないため同地域を抜け出す人の方が流入人口より多い。住宅市場を決める大きな決定要因は人口変動であるが、特にフロリダ州タンパ市ではこれまでのホットな市場から人口流出によって市場が低迷している。
歴史的に住宅市場が大きく低迷した時期を考えてみよう。最新のコロナ期を別とすれば 2008年のリーマ ンショック後が最新の一つである。物件をサブプライムローンで購入して短期で売り逃げるというコンセ プトは現在のそれとは異なる、 その前は大恐慌時代に戻る。政府の歳出オーバーと大量の失業者による不景気があった。1980年頃はインフレで住宅ローンが年利 17-18%という時代もあった。しかしこれまでのどの時期と比較しても今の不 動産市場とは性質が異なる。働く業界による雇用条件の格差、資本家と労働者という格差、労働者の中で もスキルを持った高所得者とそうでない者との格差が現在の状況を生んでいるとすれば、これまで見られなかったパターンである。これが一時的なものかどうか、K字型ギャップが今後も開き続けるのかどうか を予測することは難しい。ただ言えることはこの問題が簡単に解決できるものでないことは確かである。
