リモートワークが住宅市場に与える影響

リモートワークが住宅市場に与える影響

Zillow 社がこのほど米国におけるリモートワーク(オフィスに出勤せずに自宅や遠隔地で仕事するこ と)についてのアンケート調査結果を発表した。

内容を以下に要約してみた。

– 回答者中39%がいつオフィスに出勤することになるか 今のところ不明
– 回答者中84%がリモートワークが良いと思っている
– 回答者中44%が常時リモートワークが良いと思っている
– 1週間に一度はリモートワークしている人はそうでない人に比べて2倍以上引越ししたい人がいる l 回答者中35%はコロナ問題が今後どうなるかわからないために、生活が心配だと答えている

リモートワークによって毎日通勤をしなくて良くなり、これまでオフィスから近距離に住むことが最優先 だった多くの人々が土地価格が安い郊外でゆったりと大きな家に住みたいと考えるようになった。またコ ロナが収束した後でもリモートワークを続けたいと希望している。その理由として生活様式や時間をフレ キシブルにできる(69%)ことや好きなことをする自由度が高い(64%)ことをあげている。
調査を行った Zillow 社副社長メガンレイブスタイン氏は「働く人にとってフレキシブルに働けるという 環境は重要である。これまでのような出勤を義務付ける雇用主に対する抵抗が強くなっている。フレキシ ブルに働けて好きな場所に
住むことができれば生産性が上がり生活への満足度が高まるため働く本人だけでなく雇用主や地域にとってもプラスの作用を及ぼすはず。」と述べている。

このトレンドは一時的ではなく今後長期的に続く可能性がある。仕事と生活の場所を自由に選べるというこ とが米国全体の住宅市場に大きな影響を与えている。特に新規購入者やこれまで賃貸しかしていなかった 人々への影響が大きい。
1 週間に最低一度リモートワークしている回答者中 23%が引越しを計画しているのに対して、出勤してい る回答者中で引越しを計画している人の割合は 12%にとどまった。
都市中心部から 60-90 分離れたエリアでの住宅市場の動きが最も活発で値上がり率も高い。Zillow 社自 社でもパーマネントフレキシブルワークプレイスポリシーと呼ばれるリモートワークを促進する戦略を発 表したところこの 1 年半の間で引っ越した従業員は以前より 45%増加したという。

次に移動パターンについてみてみよう。同じ都市圏の中で土地が小さく単価の高い都市中心部から、スペ ースがあって単価が低くのんびりできる郊外に移動するパターンが最も多くみられる。このメリットは今 までと大きく環境を変えずに済むことである。一方で他の都市圏に移る動きもかなり多くみられる。特に ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンジェルス、シカゴ、サンディエゴの 5 大都市圏からの移動は最 多である。単価が高い同地域から、単価の安い他の都市圏への移動である。

5 大都市圏における移動パターン

(ノースアメリカンバンライン社より)

上図は引越し業者大手のノースアメリカンバンライン社が行った 5 大都市圏の引越し先トップ 5 に関する 調査結果である。引越し先で最も多かった地域はアリゾナ州フェニックス市、ノースカロライナ州シャー ロット市、テキサス州オースティン市、テキサス州ダラス・フォートワース市、フロリダ州マイアミ市、 フロリダ州サラソタ市、ワシントン州シアトル市となっている。シアトル市を除いて全てサンベルト、い わゆる南側で暖かい気候の地域に人気が集中している。

大都市別リモートワークによって平均的な家を購入できる賃貸者の割合

(Zillow エコノミックリサーチより)

全米大都市圏では家を購入できないが他の地域なら購入できるポテンシャルを持つとされる賃貸者の数は 200 万人存在する。 上図を見ると大都市圏ではサンノゼ市が全米で最も住宅価格が高い地域であるため、そこで働きながら賃 貸している人々が全米他地域で平均的な価格の住宅を購入できる人々の割合が 25%を超え最も高い。つ いでサンフランシスコ、ロサンジェルス、サンディエゴ、デンバーと続いている。ただこの人々が住宅購 入の目的だけで簡単に引っ越すかというと必ずしも当てはまらない。特に他の都市圏への移動となると仕 事環境への対応や新たな住環境への変化を恐れて思い切れない人もかなり存在する。

仕事環境と住環境の変化と調整は個人レベル、職場レベル、地域レベルで今後も続くことになりそうだ。