新しい居住物件売買のルール

(Yahoo!ファイナンスニュースを要約)

8月17日より米国住宅不動産売買のルールが大きく改定される。売り手エージェントはこの日からMLSデータベース(日本におけるレインズ)で物件情報を公開する時に買い手エージェントに対するコミッションの記入ができなくなる。

これまで売り手エージェントが専売契約を締結する時に売り手とコミッション額(通常売買価格の5-6%)を決めてその中に通常売り手から買い手エージェントに支払われるコミッション額も含まれていた。
改定後は売り手・買い手それぞれのエージェントがクライアントとコミッション額を交渉して決めることになる。つまりコミッションの決定権という意味で売り手と買い手はエージェントに対して有利になる。

売り手はこれまでの両方のエージェントに支払うという義務から解放され、売り手エージェントに対するコミッションを考慮すれば良い。買い手にとってこれまで売り手が支払っていたためあまり知らされることのなかった買い手エージェントのコミッションは、エージェントと交渉できる立場になった。その代わり最初に物件のツアー(内見)をする際に正式契約が必要となる。

以下売り手・買い手とエージェント間に発生する権利と義務をあげてみよう。

買い手サイド

• 買い手エージェントが支払われるコミッションを記した契約
• 買い手エージェントに支払われるコミッションは交渉次第で決まり法律で決まられていないというディスクロージャー
• 買い手エージェントが売り手・売り手エージェントから支払われるコミッションと買い手との交渉で支払われるコミッションの両方支払われることが禁じられる
• 買い手エージェントに支払われるコミッションのディスクロージャー
• 買い手エージェントが買い手と契約締結したコミッション額を超えるコミッションを受領することの禁止
• 買い手は従来のように売り手から買い手エージェントにコミッションを支払うよう売買申込書(オファー)で交渉することも可能
• 買い手エージェントは売り手・買い手のいずれかからコミッションを受領することができるがMLSはこれに関して無関係であり一切の責任を負わない。
• 買い手は買い手エージェントのサービス内容やコミッション額からエージェントを自由に選択できる

売り手サイド

• 売り手エージェントがMLS上で買い手エージェントに支払われるコミッションを表示することはできない
• 売り手エージェントはサービス料金とコミッション額について売り手と契約する必要がある

全米不動産協会(NAR)によると売り出される居住物件の90%以上がMLSに掲載されるという。今回の改定はこういった点からも不動産業界にとってまた消費者にとっても大きなインパクトを与えることになる。その影響はまだよく予測できない。ただ現時点で言えることは(1)消費者がエージェントに対して有利になる (2)住宅価格が下がる圧力が強まる (3)買い手エージェントの立場・役割が微妙になる (4)消費者保護が加速化するということになるだろう。

改定は売り手が買い手エージェントのコミッションも負担するという従来型のコミッション支払いに関するビジネスモデルに対して不公平である、また買い手からは買い手エージェントのコミッション額がいくらか知らされていない(エージェントが高いコミッションを支払ってくれる物件をすすめる動機となる)というクレームによる大規模な訴訟問題から端を発している。訴訟は大手不動産FCにとどまらず、NARや各地域のMLSまで巻き込まれ4億ドルを超える巨額の損害額が支払われた。

上記にリストアップされているようにエージェントのコミッションは交渉次第で決まり法的に設定されているわけではないという大前提をあらためてエージェントがクライアントに通知する義務がある。またコミッション額も必ずディスクローズする必要がある。

今後コミッションを売り手に対してディスカウントし、買い手に対してコミッションを払い戻すことが多かったポータル系不動産企業であるZillow、 Redfin、Trulia、Realtor.comはクライアントを増やす可能性が高い。ポータルでは不動産に関して提供する情報量も膨大で、クライアントはエージェントのヘルプがなくてもほとんどの情報を無料で入手できる。特に買い手エージェントにとって買い手からは買い手が得られるサービスは何か、それに対してコミッションを支払う価値があるのかといった基本的な疑問が出ている。

ただ買い手がギリギリの購入予算から買い手エージェントに対してコミッションを支払うというビジネスモデルには問題がある。コミッションは融資できるものではなく頭金と同様取引完了時に現金支払いとなるため多くの買い手にとってはこれまで通り売り手に買い手エージェントのコミッションを負担してもらいたいというのが本音である。もし買い手が買い手エージェントのコミッションを支払うとなると(1)支払額が少額になる (2)エージェントのサービスを限定する (3)コミッションの算定を時給ベースにするといった形になりコミッション額は従来より減ることになる。これを買い手エージェントが承諾するのかどうか極めて予測が難しい。