売り手市場が少し和らぐ気配

(業界紙レポートを要約)

フォーチュン誌はコロナ時代において超低金利が続いた米国住宅市場の状況を一見良い状態に見える反面大変な問題が隠されていると指摘している。低金利は借り手である住宅所有者にとっては良いが、現在のように金利がここまで上昇すると誰も売却しようというモチベーションが生まれない。いわゆるロックイ ン効果と呼ばれる状態でやむを得ない事情でもない限り3%で借りているローンを7%にまで上げて買い替えをしようとは思わない。

2023 年は住宅販売件数が過 30 年間で最も低いレベルとなった。それが最近になって売り手がようやく動 き出した。売り物件数が増加し始めたのである。しかし買い手はこれに対して反応していない。Zillow 社エコノミストスカイラーオルセン氏は「売り手は市場に戻ってきつつあるが買い手は動く気配がない。 ロックイン効果は少し弱まりつつある。」と述べている。5月における新しい専売契約は対前月比で 8%、対前年同時期比で13%増加している。
結果として5月の売却件数は昨年同時期比で 6%減となっており、売り物件が増加してもその分売り上げ増加にはつながっていない。在庫が増加したに過ぎない。買い手が求める内覧希望はこの1年で 18%も減っている。
売り出し物件数(在庫数)はこの1年間で22%伸びている。在庫が増えたと言ってもコロナ以前と比べると34%ダウンで以前のような状態に戻るには時間を要する。

少ない買い手に多くの売り手が存在したため買い手間の競争は少なく価格も上昇にブレーキがかかった。 価格推移を見ると4月は対前年同時期比で 4.4%アップだったが5月は 3.9%アップに下がっている。しかし価格が下がる状況には至っておらず、パンデミック以前の価格と比較すると45%も上昇している。 売り手市場は少し弱まったようであるがまだ買い手市場にはなっていない。ただ売り出し物件全体の約25%が値下げをしており、これまで見られなかった兆候だといえる。全米中間値は36万ドルであった。 買い手の立場からすれば少し交渉がしやすくなったと言ってもローン支払額が大きく減るわけではない。 5月の購入者が支払うローン返済額は対前年同時期比で11.3%アップ、パンデミック以前と比較するとなんと115.3%アップとなっている。これでは買い手が動く理由がない。

地域別市場状況比較
(レッド:強い売り手市場、オレンジ:売り手市場、ピンク:ニュートラル、ブルー:買い手市場、パープル:強い買い手市場)

地域別に見ると、5 月における1年間の価格変動はサンディエゴ(11.1%)、コネチカット州ハートフォ ード(11.6%)、カリフォルニア州サンノゼ(12.7%)、ロサンジェルス(8.9%)、ボストン(8.3%) などの都市ではいまだに強い売り手市場が続いている。一方ニューオリンズ(-5.9%)、オースティン(- 4.1%)、サンアントニオ(-2.2%)は既に買い手市場に転化している。

売り出しから仮契約までの期間、いわゆる売り出日数は13日と全米ではほぼ1年前と変わらず短期間で買い手が見つかっている。

買い手が購入を控えるためかレンタル市場は安定している。家賃は調査対象となった全米 50 の都市圏の うち 48 の地域においてこの1年間で上昇している。平均では3.4%の上昇となった。
上昇率が高かった地域はロードアイランド州プロビデンス(7.1%)、ハートフォード(7%)、ケンタッ キー州ルイビル(6.4%)、オハイオ州クリーブランド(6.3%)、バッファロー(6%)となっている。一方増加しなかった地域はアラバマ州バーミンガム(-0.3%)、フロリダ州タンパ(0%)、ニュー オリンズ(0%)であった。

このように少し売り手市場に変化が出てきているとはいえ大きな変化はすぐには期待できない。おそらく連邦政府が公定金利を大幅に下げない限りこの状況は続くと見て良い。また金利が大きく下がったとしたらこれまで購入を諦めていた買い手が一気に動き出すため逆に価格が跳ね上がり、買い手にとって必ずしも有利に動くとは言えない。例外として各地域における高額価格帯物件は富裕層を対象としているため、ローン金利に左右されにくい。多くの富裕層はキャッシュで購入しているためである。彼らの所得増加や株式などからの投資運用益の増加を考えると、住宅購入を思いとどまる要因が見られない。高価格帯物件においては売り手市場が当分続くことが予想される。