2022 年中盤から景気が変わり始めた。米国住宅市場で言えば前半は極端な売り手市場であった。低金利 に加えて売り物件数が少ないことも手伝って、市場に出た物件はそのほとんどが複数の買い手で取り合い になり、市場に出されてからわずか数日で希望価格かそれを大きく上回る価格で取引された。その後 FRB が金利を 0.75%ずつ上げ出してから少しずつ熱が引いてゆき後半になると成約数が激減し始めた。まさ に 2022 は潮目が変わった年であった。
2022年 12月における住宅販売数は対前年同時期比で 35.4%のダウン、住宅ローン申込数では 36.4%のダ ウンとなっている。住宅価格は 2022年 10月と対前年同時期と比較して-2.4%となっている。2007-2012 のリーマンショック後では平均で 26%落ちており、今回価格にはまだ大きな影響が出ていないことがわかる。
2023 年はすでに不動産だけでなく経済全体に景気停滞が見られる。レンディングツリー社が米国人全般 に行ったアンケート調査によれば回答者中 41%が 2023 年は不動産市場が値下がりすると回答している。 市場への大きな影響はないと回答したのは 25%にとどまっている。
全米ホームビルダー協会(NAHB)CEO ジェリーハワード氏は「住宅市場は停滞時期に入った。」と述べて いる。モーガンスタンレー社リサーチ担当者は 2023 年における住宅価格は 5%下がると予測している。 全米不動産協会(NAR)チーフエコノミストローレンスユン氏は「不動産不景気に入っていると言っても 住宅価格が大幅に下落する局面には至っていない。在庫が少なく売り物件の 40%はいまだに売り出し価 格かそれ以上で売れている。」という。 ムーディー社エコノミストマークザンディ氏は「住宅ローン金利が 6.5%と仮定すると住宅価格は 10%く らいの値下がりが予測される。通常の景気後退に入ると住宅価格は 20%下がるので、今回は比較的マイ ルドな下落となる。」という。
米国全体の住宅市場をひとまとめに予測することに無理がある。不動産はあくまで地域、種類、価格帯な ど多くの要素によってその性格が違う。今後住宅市場が大きく落ち込みそうなのは地域的には2つの特性がある。
1. ブームタウン。セカンドホームが多い街やこれから人口が増加しそうな街である。リモートワー クが進んで大きく伸びた地域である。急激に住宅価格が上昇し、現在の価格ではすでに街に定住
している人にとってもはや支払っていけないレベルに達している。十分な賃金が支払える雇用主 も不足している。こういったブームタウンでは 2022 年中盤からすでに価格の下落が始まってい る。アイダホ州クーデリーン市(-10.8%)、テキサス州オースティン市(10.4%)、アリゾナ州フ ェニックス市(8.1%)、ネバダ州ラスベガス市(8%)、ユタ州ソルトレーク市(7.9%)、カリフ ォルニア州リノ市(7.6%)などがその代表である。
2. 西海岸の高額物件地域。元々価格が高い地域であるが、景気の低迷、株式市場などの影響を受け やすい。IT 大手が大量解雇を発表すると途端に住宅市場が冷え込むことになる。サンノゼ市(- 10.6%)、サンフランシスコ市(-9.5%)、サンタクルーズ市(-8.4%)、シアトル市(-5.8%)な どがその代表である。低い物価の地域を求めてすでに人口流出が進んでいるため当分物件価格の 上昇要因から遠ざかっている。
一方 Zillow 社が全米 256 地域の都市圏を対象に行った調査中 146 地域で住宅価格が 2022 年のピークから ほとんど下がっていないという。フロリダ州マイアミ市やフィラデルフィア州フィラデルフィア市などが それにあたる。ただこう言った地域においても 2023 年以降景気後退の影響が出てくることはほぼ確実で ある。
同時に 2020 年から 2022 年にかけて住宅価格が高騰しすぎたということも事実である。ムーディー社の調 査によると同期間に住宅価格は 38.1%上昇したという。これだけの上昇をすればたとえ上記の大幅ダウン している地域の値下がり 10%を引いてもまだ大きなゲインがある。つまり多くの住宅所有者にとってこ こ数年で相当の資産価値を増やしたことになり、一概に住宅市場がマイナスに転落したと言ってもすぐに 支払い滞納や競売の嵐になるとは考えにくい。これがリーマンショック時とは大きな違いとなっている。
景気が変わったことは事実であるが、今後住宅市場がどのようになるか予測することは非常に難しい。大 きな要因としては、FRB の動き、インフレ、ロシア・ウクライナ情勢、中国経済・中国コロナ政策、ローン金利、賃金・失業率、株価、国債、人口動向、建築数など全てが関わっている。