従来型不動産ビジネスに殴り込みをかけて登場したiBuyerプログラムは縮小して徐々に消滅の方向に向かっているようである。その代表格の一つであるレッドフィン社がこのほど同社のiBuyerプログラムを終了すると発表した。同時に同社では全従業員の13%をリストラの対象とするという。
ただiBuyerプログラムが消滅するかといえばこれは定かではない。残るiBuyer企業で代表格はオープンドア社とオファーパッド社のみとなった。しかしその他にも大きく広告宣伝をしていないものの、ウェブを使って売手から直接物件を買い取る大手投資企業や個人ベースのビジネスが存在する。
投資家のタイプを4つに分けると
(1) オープンドアやオファーパッドのような幅広い消費者を対象とするiBuyer
(2) ウェッジウッド社のような大手投資企業
(3) さまざまな投資家を対象とした市場
(4) 個人及び小規模企業
のようになる。
上記の投資家は全て不動産エージェントと協業するシステムになっている。それぞれのカテゴリーでその割合は違っているが、エージェントの存在を否定することはない。その中で(1)のオープンドア、オファーパッドといったiBuyerは既存エージェントとは少し距離をとった存在だと言える。他の3者はコンピューターを使った解析やアルゴリズムには長けているが、地元での存在力という点でローカルエージェントの存在を必要としている。
また両者のビジネスモデルにはかなりの違いがみられる。オープンドア、オファーパッドは物件の修理やバリューアップを得意としていないため、すぐに転売可能な物件を対象としている。そういった意味で彼らが求める対象物件は狭く限定されている。他の3者は壊れそうな物件に付加価値をつけて転売することを得意としている。またはすぐに転売しないで、賃貸することも想定している。そのためビジネスモデルとしてフレキシビリティーがある。
上記(1)の場合、ビジネスの主目的が既存不動産仲介ビジネスの破壊というところにあり、必ずしも地域のコミュニティーやエージェントと緊密な関係を構築しようと考えていない。既存ビジネスモデルの破壊に主な目的があるためだ。
しかしAIやコンピューターアルゴリズムだけでローカルのエージェントパワーを駆逐することはできなかった。今後もその流れに変化はない。これが不動産(特に住宅物件)という商品の特性である。ロケーション、ご近所、建て方、使い方、直し方を見ると千差万別であり、これをAIで正確にデータ化することは不可能である。事実Zestimateを使って物件の購入や売却を行なった場合その多くのケースで評価を間違えて損失を出しているはずである。AIやコンピューターアルゴリズムがこれまで続いてきた不動産評価システムにとって変わることはまずない。デスクトップで簡単に評価ができるという便利さはあっても、これを最終的に全て自動化することはあまりにリスクが大きい。
ウェッジウッド社はフリップ(短期転売)を主業としているが、決してAIに任せるビジネスではない。あくまで人が現地に赴き、人が最終決定をしている。テクノロジーはあくまでツールでしかない。ご近所からの騒音、景色、近くにある工場、直しの度合い、住んでみた雰囲気などは決してAIに依存して決められるものではない。
不動産ビジネスはやAIやテクノロジーで取って代われるものではない。ヒューマンビジネスである。
また前述の(1)にあたるビジネスモデルでは短期譲渡を狙っており、付加価値をほとんどつけないビジネスモデルである。薄利多売である。不動産好調時ならまだしも、市場が減速する時期においてこのビジネスモデルは成立しにくい。利益マージンが低く少しでも売却までの期間がかかっただけで赤字になってしまう。余分な修理・出費やクレームが出た場合、すぐに赤字転落である。スローマーケットになれば買手は直してある物件を好む。直していない物件は相当売却価格を安くしない限り、売却までにかなり時間を要する。
オープンドア、オープンパッド社は今こそAIに頼らず人間の判断を重視すべきである。市場の潮目が変わっており、場合によっては損失を覚悟してもうまくいかないプロジェクトは清算すべきである。その際人(エキスパート)の判断が不可欠である。
レッドフィン、Zillow各社はもとはといえば不動産インターネットサーチがメインビジネスである。株式市場からの豊富な資本をもとにiBuyerをスタートさせたが、そこに真の意味で消費者を納得させるサービスの内容はなかった。ただ不動産既存ビジネスに殴り込みをかけるという突発的な発想でしかなかったと言える。そこに消費者が納得する内容は存在しなかったように思える。
こうしてみると住宅仲介ビジネスのIT化、AI化はそれが進んでいる他業種ほど簡単ではないことがわかる。このビジネスをバーチュアルで行うことはほぼ不可能である。業務や手続きの一部で採用されることはあっても、100%のIT化、AI化はほぼ不可能といって良い。コンピューターで画一化、パターン化できない要素があまりに多く存在しているためである。