FRB(米国連邦準備委員会)は2022年数回にわたって公定歩合を立て続けに引き上げた。結果として住宅市場はスーパーホットからコールドに急変した。政府が加熱するインフレへの対抗措置であるが、これにより景気後退の不安が増加した。株価の下落、企業の従業員雇用の減少と解雇の増加、住宅ローン金利上昇などその兆候が至るところに見られる。同時にエネルギーや公共料金、食品を中心として物価高が毎日の生活に大きな影響を与えている。
住宅市場で言えば住宅価格は2022年前半のピークを境に下落し始めた。今後どこまで下落するのか、また住宅ローン金利がこのまま上昇し続けるのかは公定歩合の状況にかかっている。政府はインフレが抑えられた兆候が出るまで公定歩合を上げるという強い姿勢を崩していない。FRBトップのジェロームパウエル氏は「コロナ禍における住宅価格の急騰は異常で長続きしない。」と強く牽制している。
買い手にとって2021年中頃に2%後半だった住宅金利は7%前後にまで上昇しており、毎月の支払い額で50-70%アップという過去にない負担増加となっている。当然買い手にとって購入を諦めるか、購入額をかなり低くするかという選択肢しかない。また売り手にとっては売買価格がピークより下がっている、購入時に今より2倍近い金利支払いを覚悟しなければならないということで、売却を躊躇するケースが多い。
おそらく住宅市場のスローダウンは地域差があるものの全米レベルで起きている。コロナ禍で値上がりが激しかった地域ほど、落ち込みも激しくなりそうだ。セカンドホーム(別荘)が多い市場、大都市から離れた郊外市場、新築市場などがその対象と考えられる。
テキサス州オースティン市、アイダホ州ボイジ市、アリゾナ州フェニックス市、ユタ州ソルトレーク市、カリフォルニア州リバーサイド市、ネバダ州ラスベガス市はその典型と言える。
「住宅ローン金利が下がらない限り、住宅価格の下落が持続する。」というのは一部のアナリストに意見であるが一方では「ホームオーナーは全般的にエクイティー(純資産=物件価値-負債額)をかなり持っているので、焦って安売りするケースは少ない。従って売り物件の在庫が急増するとは考えにくい。需給のバランスから考えて、売り手市場から一気に買い手市場に移行するとは思えない。」という意見も多い。
従ってリーマンショック時代に見られた競売や投げ売り的な買い手市場になるとは考えにくい。競売を狙う不動産エージェントは現在約1%に過ぎない。リーマンショック時には49%に達していた。リーマンショックの反省からレンダーの住宅ローン審査はかなり厳しくなり簡単にローンの承認がおりないようになっている。当時と違ってローン支払いに関して米国住宅市場は現在超健全と言える。多くの売り手にとって余程の事情がない限り売却する必要がない。このように売り手と買い手のマインドに大きなギャップが存在する限り売買件数は当分減少しそうである。
一方でマイホームの購入を諦めた買い手にとって賃貸を続けることにも大きな障壁がある。レントが一向に下がる見込みがないことだ。買い手にとって今も高く今後も上昇するレントを支払い続けるか、金利が高くてもマイホームを購入して固定金利を使って住宅に関する支払いを一定にするかという選択肢に迫られている。また投資家にとっては株価や他の資産価値が下落する状況の中で、住宅はたとえ価格が下落してもレントが上昇すれば、資産として持ち続けることができるため魅力的だと言える。
米国30年固定金利型住宅ローン金利と住宅価格中間値の比較推移
(1971年から2022年まで。ブラック:住宅価格中間値、ブルー:30年固定金利型住宅ローン金利)
景気後退を政府が認めればその時点で公定歩合を下げるため、住宅金利も下がり市場は落ち着く。金利が高い時に購入した人はその時点でリファイナンス(ローン借り換え)をして支払額を下げることができる。筆者の私見であるが、米国住宅購入は有利な税制、安定した資産価値、賃貸による運用、米国における人口増加、高金利も歴史的に見れば決して高くない、レントが今後も上昇するといった要素を考慮すれば長期的に購入しないという理由が存在しない。歴史的に見ても不動産はインフレヘッジとしては最適な資産である。
このようにインフレ、景気後退時代で先行きの不安感はあるが、状況をしっかり把握してリーズナブルな判断をしていけば勝者になれる。逆にこういった時期こそチャンスが隠されているのである。