自然災害多発地域に位置する物件

コアロジック社はこのほど米国における自然災害と住宅についての報告書を発表した。それによると米国の住宅物件総数の約10分の1にあたる1450万件に及ぶ住宅が自然災害の被害を受けているという。ハリケーン、雪害、山火事など悪天候による自然災害がその対象となっている。その被害額は2021年度で569億ドルに達している。

同報告書はホームオーナー、融資銀行、保険会社などに自然災害によるリスクをあらかじめ認知してもらう目的で作成された。同社アナリストは「自然災害によるリスクはあらゆる形で発生するが、被害によってホームオーナーだけではなく経済全体が大きな影響を受けている。気候変動による自然災害の増加は今後も避けられない。」と指摘している。

災害が去った後で被害がなくてもホームオーナーにとってはコミュニティーが変わった、物件価値が落ちた、保険料が上がったなど間接的な影響も無視できない。カリフォルニア州を例に取ると山火事による被害が主な理由でで2017年から2020年の期間に保険料が平均27%上昇し年間保険料総額は111億ドルに達したという。

全米モーゲージバンカー協会によると山火事、ストーム、干魃、猛暑、洪水などによって全米洪水保険プログラムの収支が財政難に陥っていると発表している。連邦住宅融資協会会長サンドラトンプソン氏は「気候変動によって米国の住宅融資システムに異変が起きている。Fアニメやフレディーマックといった連邦政府が運営するモーゲージ2次市場でも自然災害による被害や支払い不履行のリスクをさらに大きく算出する必要がある。そのために借り手のコスト負担が上昇することになる。」と述べている。

コアロジック社やアトムリサーチ社では全米の住宅を対象に自然災害によるリスクを分析するシステムを提供している。モーゲージレンダーや保険会社はそのデータを元に意思決定をしている。

コアロジック社が昨年に起きた災害別の被害額を算定している。
・山火事:14.6億ドル、4101件の被害
・異常気象(竜巻、表など):74.6億ドル、56万3627件
・ハリケーン:330億ドル、123万件
・雪害:150億ドル、1276万件

被害は物件だけで終わらない。インフラやコミュニティー全体に与える被害は災害後も長期間にわたって続く。再興されるまでに長い年月を要する。
多くのホームオーナーにとって自らの物件が再建され、コミュニティが元に戻るまですみ続けることが困難な状況が多い。その場合ホームオーナーは物件を放置して別のコミュニティーに引っ越してしまう。そういったケースが増えるとコミュニティーが人口減少、過疎化、ゴーストタウン化して地域経済に大きな影響を与える。雇用状況が悪化する、不動産価格が下がることによってホームオーナーがローンの支払いを続けられなくなって、ローン滞納、競売の増加につながる。低所得層が多い地域で災害が起きた場合、この被害が大きくなる。

ルイジアナ州ホウマ地域で起きたハリケーンアイダによってローン滞納率はそれ以前の7.4%から2ヶ月で13.5%に跳ね上がっている。

報告書では今後自然災害による被害への対策を各方面に求めている。具体的には以下のような提案が出された。
・モーゲージレンダー:リスクマネージメントのプログラムをさらに促進させる。災害への準備と開会について消費者教育を行う。
・政府・地方自治体:最新のリスクデータをもとにハザードマップや警告システムを強化する。それに必要な法律や条例の整備。
・保険会社:データやアナリティックスを使って保険のアンダーライティングを見直す。クレーム対応のスピードアップと改善。消費者教育。

消費者は物件探しの段階でその地域の自然災害リスクについてさまざまなツールが与えられている。リアルタードットコム社の調査によれば、住宅購入者の78%が自然災害のリスクを購入判断の基準の一つに入れているという。

レッドフィン社では最近自然災害(洪水、山火事、干魃、ハリケーンなど)多発地域に関するデータをサーチエンジンに取り入れている。物件を探す人が自然災害多発地域について認識してもらうのがその目的である。その中の洪水を対象に行った3ヶ月間の試験期間で多くのユーザーはデータを見た後洪水最多発地域での購入を控える動きが見られたという。つまりこういった地域では物件価値が上がらないかまたは下がる可能性が高い。


(レッドフィン社より)

また補修コストも鰻登りに上昇している。ファーストストリートファウンデーション協会によると、洪水による2051年における被害総額は現在より61%上昇して322億ドルに達すると試算している。その場合洪水保険は現在の保険料の4.5倍にまで上げなければならないと報告している。