ZILLOW OFFERS、撤退

ZILLOW 社が運営する iBuyer プログラムである ZILLOW OFFERS は 10 月末に突然新規の物件購入をストッ プすると発表した。それだけでなく今度は iBuyers のビジネスから撤退すると発表した。全米で 7000 戸 におよぶ在庫を処分することになる。同部門は営業してから 3 年半の間に 10 億ドルの損失に達すると見 られる。この動きは iBuyer 他社だけでなく住宅不動産業界にとって大きな影響を与えそうだ。

同プログラムは急成長しすぎたことが敗因だと言える。特に最近の 3ヶ月間で過去 18ヶ月分の購入をしている。

ZILLOW 社 iBuyer による購入件数推移

(マイクデルプリート氏より)

同社の説明によれば、売り手からの問い合わせに対する購入件数比率が高まったこと、購入価格が上昇し たことの 2 つの要因によって同プログラムが急速にトラブルを抱えるようになったという。フリッピング (短期譲渡)ビジネスにおいてこの 2 つはプロジェクトの成否を決める最重要項目である。

iBuyer 大手であり ZILLOW OFFERS の最大のライバルであるオープンドア社、及びオファーパッド社は ZILLOW とは違う戦略を展開している。下表のように当初 3 社ほぼ同じレベルにあった購入(仕入れ)価 格は 2021 年夏のピーク時から開きが見られる。後者 2 社の仕入れ価格は低く抑えられている。
逆に ZILLOW 社が高い購入価格を提示したために購入件数が増えていると言える。
当初より同社の iBuying プログラムは他社と比較して仕入れ価格、売却価格、リノベーション費用、サー ビス費用の全てにおいて劣っていた。

同社 CEO で創業者でもあるリッチバートン氏は、「iBuying ビジネスにおける予測不可能な性格が当社の 業績に不安定性をもたらしている。またこれまで消費者やエージェントに第 3 者として中立な立場で不動 産情報を中心としたデータやサービスを提供してきた当社ブランドが iBuyer になると中立でなくなるこ とが大きな懸念点である。」と説明している。 確かに中立性がなくなって一部の消費者やエージェントを敵に回すという点では同社への信頼に関わる問題であり、そもそも iBuyers ビジネスには参入するべきではなかったかもしれない。

iBuyer 大手 3社の購入(仕入れ)価格比較推移

下グラフを見てみよう。他社 2 社と比較して ZILLOW 社の利益率は 4-5%低く、もともと黒字になりにく いビジネスモデルであることがわかる。これはナスダックに上場した IT 企業と類似する傾向で、株式市 場において巨額の資金が得られるため、当分は利益よりも売り上げやシェアの拡大が優先されたことを意味する。

そのため他社 2 社がフリッピングで大きな利益を出しているのに ZILLOW 社は赤字が続いていた。これで どこまで続けるかということであるが、仕入れる物件の半数近くが赤字でないと売れなくなると事態は深 刻になる。今回その限界が来たということになる。

iBuyer 大手 3社一件あたりの収支比較

($、グレー:2021 年第 1 四半期、ブルー:2021 年第 2 四半期)

iBuying というビジネスは一見すると簡単に思われるが、実は難しいビジネスである。フリッピングもそうであるが不動産を扱う限り相場の変動、物件の管理、手続きなどなかなか簡略化できるものではない。
今後 ZILLOW 社が経営危機に陥るとはまだ見られていない。iBuyers プログラムをスタートする以前の同 社は広告収入やプレミアムエージェントからの掲載料などで安定した利益が確保できていた。その時の状 況に戻すわけで、同社のポータルとしての強さを考慮すれば同社の持つ住宅市場における圧倒的な存在は なくなるわけではない。