不動産ニュース

深刻な売り物件不足(1)

米国住宅市場では深刻な売り物件不足が続いている。コロナウィルス感染で経済が停滞するかと思われた が、住宅市場では全く逆の現象が起きている。
例をあげるとワシントン DC でレッドフィン社エージェントが買手のお世話をして気に入った物件(売り 出し希望価格は 85 万ドル)に売り出し価格より 15 万ドルも高くしてオファーしたが、14 に及ぶオファー の中から 23 万ドル高くオファーした他の買手が契約したという。こういったニュースは米国中のエージ ェントにとってごく当たり前の会話になっている。一体何が起きているのだろう。

在庫不足はここ 5-6 年以上続いている。

複数のオファーで物件の争奪戦が起きた割合

(% 2020年4月から2021年2月まで、レッドフィン社エージェントが買手オファーを提出したケース)
(レッドフィン社より)
上グラフのように売り物件に複数の買手が集中する状況(Multiple offers)の割合が最近特に著しい。買 手はどうしても欲しいと思う物件には売り出し価格より高いオファーをするだけでなく、頭金を大幅に増 やす、すべて現金で支払う、仮契約期間を短くする、修理など様々な購入条件を取り外す、売り手に自分 たちがどれだけ物件が気に入っているか手紙を買手オファーに添える、売買完了後も売り手に無料で引越 までの猶予を与えるなどあらゆる手段を講じている。それでもなかなか購入できていない。

Zillow 社の調査によれば 2020 年 2 月と 2021 年 2 月を比較して米国全体の在庫数は 30%も減っていると いう。2019 年 2 月と 2020 年 2 月では 4%の現象であった。つまりコロナ期に入って在庫不足が加速化して いる。また売り出しから仮契約に入るまでの期間も減少している。 地域によって在庫不足の状況は変わるもののほぼ米国全土で不足している。したがって価格が上昇し続け ることになる。
Zillow 社上級アナリストジェフタッカー氏は「在庫不足の主因はリーマンショックによる住宅市場の崩壊 で新築物件の供給が極端に減少していることにある。2007 年以来住宅建築数(特に戸建)は常に需要を下 回っている。」と述べている。

売り出しから仮契約にかかる期間の推移

(日、2019 年 1 月から 2020 年 12 月まで)
(Zillow 社より)
また建設業界にも変化が起きている。ハウジングバブルによってハウジング需要が減ったため、従業員(主 に移民)が解雇された。失業した労働者は本国に戻ったり他の業種で就職しそれ以来建設業界に十分な労 働力が戻っていない。ここ数年かなり着工件数は増加しているが、建設業界のキャパシティーは十分とは 言えず現在需要に追いついているとは言い難い。

一方住宅需要は平均で 30 歳少しとなるミレニア ル世代がホームショッピングの最盛期に直面して いる。同世代はベビーブーマー世代以来最大の人 口を有する世代である。
以上の要因に加えてパンデミックにより巣篭もり 状態の人々にとってマイホームにかけるエネルギ ーが一段と強くなった。旅行や外食に行けない代 わりに家ですべてのアクティビティーをこなすと いうライフスタイルが主流となり、住宅に対する需要は一層増加している。家の買い替え、増築、リフォ ーム、DIY などハウジング産業は今空前のピークを迎えている。

長期的に見ればこの状況が長く続くことは考えられないが、パンデミックが続き住宅ローン金利が低く抑 えられている限り在庫不足が当分続くとみられている。