(業界レポートを要約)
自然災害と家屋保険が米国住宅市場の足枷になりつつある。ロサンジェルス郊外の高級住宅街であるウェストレークで活躍するエージェントスコットゴショーン氏は仮契約中クライアント向け家屋保険で見積もりを取っていた。物件は 800万ドルの戸建で保険の見積額は年間 14 万ドルと出てきた。2−3年前なら年間2万ドルで確保できていたはずの保険である。同氏は信じられない保険料について「山や樹木が多い火 災多発地域において保険を確保することは非常に難しくなってきている。この保険料だと売買取引がキャンセルになってしまう。」と説明する。その後同氏は保険会社を何社もあたってようやく年間6万ドルの保険料で加入できた。
カリフォルニア州だけでなく家屋保険のコストは全米中で上昇している。多くの住宅購入者や住宅所有者が異常に高くなった保険コストに苦しんでいる。
不動産ポータルで最大企業 Zillow 社やレッドフィン社では住宅購入者に対して家屋保険に加入しにくいハイリスク地域を示す新たなツールを提供している。火災、洪水、浸水、ハリケーンなどの自然災害リスクを予め購入者に対して知らせるようにしている。データはファーストストリート社の分析データを使用している。
当然住宅の購入は以前より困難になっている。買い手にとって住宅金利が高止まりしている、売り物件が少ない、価格が下がらないといったマイナス要因に加えて高い保険料、または保険に加入できないリスクも考慮する必要がある。購入だけでなくローンの借り換え(リファイナンス)時にも家屋保険の見直しや更新が条件となっている。既存の家屋保険でも保険の期限が切れる時に保険会社から屋根を葺き替える、家の周囲の樹木を切るなどといった条件を求められるケースもかなり出ている。壊れていない屋根を葺き替えるとなるとオーナーにとっては手痛いコストを強いられる。またはハイリスクを理由に保険を新規だけでなく既存の保険もキャンセルする保険会社が大手を中心にかなり増えている。
カリフォルニア州不動産協会(CAR)が提供するエージェント用共通契約書式にある売買契約書は最近家 屋保険を買い手が確保できることを購入条件(Contingency)の一つとして追加している。
マイホームを持つという米国民の夢がますますそのハードルを上げている。マサチューセッツ州にある保険リサーチ企業インシュリファイ社の調査によると全米平均家屋保険料は過去2年間で$1984から$2377へと約20%上昇しているという。住宅維持コストに占める家屋保険料の比率は約10%、ハイリスク地域では25%になると同社は説明している。
特に保険料が上昇した州はカリフォルニア、ノースカロライナ、フロリダ、テキサスオクラホマ各州であ る。保険料の上昇だけでなくこれらの州では保険の発行をやめる会社が急増している。 保険業界団体である Insurance Information Institute によると全米で家屋保険非加入者の比率は 12% になると発表している。また保険料は毎年上昇するため固定金利の住宅金利と異なり住宅所有者の家計を 圧迫している。 不動産関連企業も自然災害による保険のリスク要因を試算しようとしている。ハイリスク地域では今後毎 年保険料が$700 ずつ上昇するという予測さえ出ている。(ベンジャミンキーズワーキングペーパーより)
Zillow社の調査によれば、全米で販売されている住宅のうち56%がハイリスク地域または熱暑地域で本 来住宅に適さない地域に建っているという。カリフォルニア州リバーサイド市で売り出されている物件の70%がハイリスク地域に属している。ニューオリンズ市内では洪水多発ちきに当たる物件が 77%を占めている。つまりハイリスク物件はもはや限られた地域にある限られた物件だけではない。
自然災害に関するデータは保険会社だけでなく銀行や不動産会社にとって今後一層重要になってくる。連邦災害対策委員会(FEMA)でも災害に関するハザードマップや予測が提供されているが、5年に一度の発行となっている。また災害地域の行政からの圧力であまり厳しい格付けをしないようにという政治的な面 もあり正確で最新のデータとは言えない。前述のファーストストリートのようなレポートが最も信頼性が 高いため、Zillowのような企業はそのデータを好んで利用している。
今後気候変動がますます激しくなり、土地不足によりそういった地域に住宅がますます多く建設されるとすれば、災害に関するデータは関連する産業全体に大きなインパクトを与えることになる。また保険料は州や地域によって大きく変動している。
州別・金額別家屋保険年間保険料の比較
(クアドラントインシュアランスサービスより)
金額別全米家屋保険料の年間平均額